社内コミュニケーションのあり方も時代と共に変わっている。かつては「報告・連絡・相談」の頭文字をとった「ほうれんそう」という言葉がよく知られてきたが、最近では「おひたし」(後述)などもビジネス用語として話題に上るようになった。だが、そうした社員教育のあり方で、これからの世界を生き残っていけるのか。AI&スマホ革命による「第4の波」時代に生き残る組織について、経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。
「ちんげんさい」「おひたし」「こまつな」
近頃、“上司の心得”として話題に上るビジネス用語が、「ちんげんさい」「おひたし」「こまつな」である。
新聞・雑誌のコラムやネット記事などでもしばしば取り上げられているようだが、まず「ちんげんさい」は最近の若手社員を評する言葉で、「沈黙する」「限界まで言わない」「最後まで我慢する」の頭文字「沈・限・最」に由来する。
昔から部下の育成や社内コミュニケーションの必要性を説くビジネス用語でよく知られているのは「ほうれんそう」で、「報告・連絡・相談」の頭文字だ。しかし、最近の若者は上司がいくら「ほうれんそう」を徹底するように促しても、報告すべき局面で「沈黙し」、連絡すべきことを「限界まで言わず」、相談すべき問題を「最後まで我慢する」というのである。それを放置していたらトラブルが起き、場合によっては部下が辞めてしまうかもしれない。
次に、そういう事態を防ぐために、上司は「おひたし」を心がけねばならない。もし部下の「ほうれんそう」が不十分だったとしても「お=怒らない」「ひ=否定しない」「た=助ける」「し=指示する」ことが重要だという。
そして、仕事を効率良く進めるための秘訣とされるのが「こまつな」である。「こま=困ったら」「つ=使える人に」「な=投げる」だ。能力不足の部下に任せていたら、仕事が進まずに時間を浪費するどころか失敗するかもしれないので、仕事を依頼した部下とは別の“できる部下”に業務を割り振る、というわけだ。
強く言えばパワハラと受け止められ、指示通りに動いてくれない部下が増える中でコミュニケーションもうまく取れなくなっているのだから、管理職にとっては面倒な時代になってきた――というのが、新聞・雑誌のコラムの論法である。
だが、私に言わせれば、これらはいずれも“上から目線”の用語であり、工業化社会時代の古いピラミッド組織における上意下達のコミュニケーション手法でしかない。
いまやAI(人工知能)が仕事の中に当たり前に入ってきて、企業は全く新しいビジネスを創出しなければ生き残っていけない時代である。それに対応するためには、組織そのものを大きく変革し、発想を大胆に転換しなければならない。
工業化社会時代は、ほぼ年齢の差が知識と経験の差になっていたから、社内のコミュニケーションも、年功序列の上意下達で「ほうれんそう」を徹底していればよかった。しかし、AI&スマホ革命による「第4の波」時代の現在は、年齢や経験に関係なくAIを最大限に活用して未知の領域を開拓しなければならない。
その場合、経験が豊かでもAIに疎い年長者は前例にとらわれて怖気づいたり、思考停止したりすることが少なくないため、経験が浅くてもAIを使いこなせる怖いもの知らずの若い人のほうが判断力とスピードに勝る可能性が高い。
この話をする時に私が想起するのは、高校生になりたての孫との対話である。
彼の将来の夢はパイロットで、引退したら、さらに世界中を旅したいと言うので、私が過去の経験から行ってみるべきだと思う海外の街や名所旧跡を教えると、すぐにAIでそこに関する情報を調べ、次々と斬新な質問を投げかけてくる。
AIを使いこなせば、70歳近く年下の孫でも、ほんの数分で知的レベルが私とイコールになるのだ。つまり、もはや過去の知識や経験には、ほとんど意味がないのである。
